国語教育史学会

第11回例会(国語教育史研究会)

日 時 2000年5月13日(土) 2:00〜5:00 早稲田大学14号館807室
題 目 研 究 音声言語の範囲で捉えられた「言語生活」の概念 −大正から昭和初期での語の使用−
  黒川 孝広(吉祥女子中学・高等学校)
総 会 1.規約改訂
2.1999年度事業報告
3.1999年度決算
4.2000年度委員選出
5.2000年度事業案
6.2000年度予算案
参加者 浅見優子、石毛慎一、大平浩哉、小原俊、笠井正信、北林敬、喜多見眞弓、工藤哲夫、熊谷芳郎、黒川孝広、小林塑青、田近洵一、古家敏亮、野村敏夫、前田健太郎、渡辺通子
音声言語の範囲で捉えられた「言語生活」の概念
 黒川 孝広
発表内容 (資料より)
1.研究の目的
 本研究は、言語生活研究史を明らかにするため、「言語生活」と「国語生活」の語の違いをどのように捉えていたかをを探り、どのような傾向があるのかを明らかにするものである。対象者は大正から昭和初期にかけての国語学者と国語教育者に限定した。また、「言語生活」と「国語生活」の使い分けを判定することから、同一人物が両方の語を使用している場合を対象とすることにした。
5.まとめ
5−1.「言語生活」の内容が音声言語について使われている傾向がある理由

1.当時の言語学では欧米の音声学が中心であった点。
 当時、多くの言語学が音声学を中心としていたことが挙げられる。神保格をはじめとして音声学の文献が多数発行されている。また、言語学の研究書の多くも発音など音声学を中心とした記述が多い。これらの影響から、「言語」は音声言語であると受け取られても不思議はない。それゆえ、「国語」ではなく、別概念の「言語」という語を使用したと考えられる。

2.国語教育に音声言語指導が求められていた点
 当時の国語教育への批判の中心は、「読み」、「書き」の文字言語指導中心であり、理解や教材の読みの行き過ぎについてであった。まだ音声言語の話し方や聴き方などの指導については十分に導入されてなく、音声言語の指導が求められていた。特に、大正自由教育の学校では、児童の実態を調査しそれに合わせた教育を目指したため、児童の実態調査を盛んにする。それゆえ、児童の言語習得過程を検討し、小学校においては音声言語を中心として指導していくことになる。また、当時は「〜生活」など生活という概念を用いることが多かった。それと、音声言語を意味する「言語」が重なり、音声言語での活動を「言語生活」という語で適用したと考えられる。

3.国語教育では音声言語指導が定着しない要因があった点
 明治期以来、国語教育では、音声言語重視の指導を求められながら、それがなかなか実現不可能であった。その要因とすれば、文字言語のように教材として定着し、どの地域でも使えるものでなく、音声言語という音の記録はできでも、その場の記録が難しい当時の状況では、教材や指導の内容が各教室で異なることになる。それゆえ、地域性に依存することになり、各地での共通の教育指導を持つことは難しいことになる。よって、どの地域でも、それぞれの地域の子どもたちの言語の使用状況について調査し、それに合わせた指導がなされるようになるのである。この教材としての可搬性のなさが主な要因であっといえよう。その要因に付加して、師範学校での教授内容にも問題があると考えられる。

5−2.国語教育者に「言語生活」や「国語生活」の語の使用が多い理由
1.「国語」という概念とは別の概念を求めていた
 教科名が「国語」であるとすると、狭義には語彙や文字などの語のレベルのことと受け取られてしまう。それが活動重視の教育思潮になると、教科の目標を「国語」だけでは十分に表すことができなくなる。そこで、「国語」とは違った、実際の日常生活の活動にも有効であるような語を探し出す。その結果「国語生活」という語が生まれる。
2.生活主義の流行
 当時は「〜生活」という語の流行があった。そして、その概念に先ほどの音声言語としての「言語」の概念が結びつき「言語生活」という語を使い、それぞれを区別することで教育目標を定義したものと考えられる。
3.影響関係が少ない中でそれぞれの教育者が求めた概念
 本調査の対象者同士がお互いの文の引用がないことから考えると、「国語生活」や「言語生活」の語は、国語教育の上でそれぞれが必要とした概念が偶然にも時代の流れと一致したものであり、特定の誰かが定義した語を使用したのではないと考えられる。国語教育者の間では教育の目的や方法の変化により、「国語生活」や「言語生活」の語を使い始めたということが言えよう。
資料目次 内容
1.研究の目的
2.「言語生活」の語の史的使用開始時期認定
3.「言語生活」と「国語生活」の使い分け
3−1.奥野庄太郎(成城小学校)
3−2.河野伊三郎(奈良女子高等師範学校附属小学校)
3−3.秋田喜三郎(奈良女子高等師範学校附属小学校)
3−4.木下竹次(奈良女子高等師範学校附属小学校)
3−5.遠藤熊吉(秋田県西成瀬小学校)
4.明治期の話し言葉重視の国語教育
5.まとめ
5−1.「言語生活」の内容が音声言語について使われている傾向がある理由
1.当時の言語学では欧米の音声学が中心であった点。
2.国語教育に音声言語指導が求められていた点
3.国語教育では音声言語指導が定着しない要因があった点
5−2.国語教育者に「言語生活」や「国語生活」の語の使用が多い理由
1.「国語」という概念とは別の概念を求めていた
2.生活主義の流行
3.影響関係が少ない中でそれぞれの教育者が求めた概念
総会
内容 (略)
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